私も原発事故当時に福島県にいた方から「原発の爆発後に鼻血が出た」という話は何人かから聞いている。原因がわからず不安に思った方はいた。それは事実だろう。だから私は「鼻血が出て不安に思った」と告白する人を責めることはできない。 しかし、インターネット上でこの問題について眺めてみたところ、「鼻血なんて出るわけがない」「嘘をつくな」という極論まで飛び出していて驚いた。「原発事故の影響ではない」と意見表明したかったのかもしれないが、あまりにも冷静さを欠いた乱暴な物言いではないか。 たしかに環境省環境保健部はホームページ上で、次のような見解を表明している(5月8日付)。
◯国連(原子放射線の影響に関する国連科学委員会(UNSCEAR(アンスケア))が、これまでの知見に基づき公表した「2011年東日本大震災と津波に伴う原発事故による放射線のレベルと影響評価報告書」(平成26年4月2日公表)によれば、住民への健康影響について、「確定的影響は認められない」とされています。
◯東京電力福島第一原子力発電所の事故の放射線被ばくが原因で、住民に鼻血が多発しているとは考えられません。 だからと言って「鼻血なんて出ない」「嘘をつくな」とまで言うのは行き過ぎではないか。「多発しているとは考えられない」と「まったくいない」は別だ。極論を言った本人は満足できたとしても、問題の解決にはならないだろう。 2012年6月14日、当時まだ野党だった自民党の森まさこ参議院議員が、参議院・東日本大震災復興特別委員会で「子どもの医療費」について次のような発言をしているのを見つけたので少し引用する。
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森まさこ君 今までのこの国会での政府答弁ですと、残念ながら、大臣は東京電力に裁判してくださいということでした。それですと、被害者の方が、子どもたちの方が、この病気は原発事故によるものなんですよということを立証しなければいけない。これはほとんど無理でございます。そういったことがないように、この法律で守っていくものというふうに私は理解しています。(畠山注・この法律=子ども被災者支援法) 例えば、具体的にこんな心配の声をお寄せいただいています。子どもが鼻血を出した、これは被ばくによる影響じゃないかと心配なんだけれども、それを診察してもらった、検査してもらった、そのお金はどうなるんですかということです。」 *** 国会会議録検索システムで「鼻血」をキーワードに検索すると17件出る。そのうち6件が原発事故時の「鼻血」に関するもの。それ以外は当時の菅直人総理が消費税増税の時期を語った「鼻血が出なくなるまで」等に関するものだった。国会では宮城県内の小学校の「保健だより」なども示されていた。福島に限らず「鼻血が出て不安に思った人はいた」ということだ。 なお、2012年3月14日の参議院・予算委員会では、当時の細野豪志大臣が「科学的、医学的な観点からは現状では健康への影響は考えられず健康調査の必要性はないというふうな判断をされているということも、これも事実として是非御理解をいただきたい。」と述べている。このことも申し添えておこう。 ちなみに私は東京電力福島第一原子力発電所構内に二度だけ取材に入った。原発20km圏内にも複数回入っている。しかし、その間、私は一度も鼻血を出したことはない。私が「鼻血」についてハッキリと対外的に言えるのは、この自分の体験だけだ。それは鼻血が出た方も同じだろう。ただ、私は根拠がないまま他人を巻き込むことは避けたいと考えている。だから他人に対して「鼻血なんか出るわけがない」とは言わない。 取材ではいろいろな方から話を聞いてきた。健康に不安を感じる方の気持ちも、「風評被害」に苦しんでいる方の気持ちも少しはわかるつもりだ。 だからこそ、私自身は今後もより一層、冷静に、正しい情報の発信と正しい情報に基づく理解に努めたいと思う。 |
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