2013年10月11日金曜日

「やぶ医師のひとりごと」 アルコール依存症の治療2

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 ◆  やぶ医師のひとりごと    第 400号  ◆
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   2013年10月11日発行 購読者数 8354名
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 <本日のテーマ>  アルコール依存症の治療2
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皆さん、こんにちは。

今回から購読して頂いた方、はじめまして。

循環器内科医のDr. Iです。



本日も「アルコール依存症」についてです。

まずは、先週までの復習。



 ●アルコール依存症とは

  ○飲酒のコントロールを失う「病気」。

  ○飲酒を続ける事により、精神依存、心身依存がおきる。

  ○いわゆる、アルコール中毒とは違う。

  ○アルコール依存症の疑いがある人は、日本で約440万人。

   治療が必要な人は80万人と推計されている。

  ○アルコール依存症で治療を受けている人は、約4万人。



 ●アルコール依存症の症状

  △強迫的飲酒

   自分の意志に反して、アルコールをどうしても止められない。

  △常にアルコールを飲みたい、強い渇望感。

  ○離脱症状(禁断症状)

   手指や全身の震え(振戦)、頭痛、不眠、

   イライラ感、発汗、めまい、吐き気。

   妄想、幻覚(幻視・幻聴)、など。



 ●アルコール依存症の合併症

  ○アルコール性肝障害

   脂肪肝、肝硬変、肝臓ガン。

  ○急性膵炎

  ○アルコール性脳症

  ○マロリー・ワイス症候群(吐血)

  ○うつ病、など



 ●アルコール依存症の進行プロセス

  1)スタート地点

   ○飲酒の習慣が始まる

  2)依存症との境界線

   ○精神依存の形成

  3)アルコール依存症初期

   ○身体依存の形成

  4)アルコール依存症中期

   ○トラブルが表面化

  5)アルコール依存症後期

   ○人生の破綻



 ●アルコール依存症の診断基準

  過去1年間のある期間に、次の項目のうち3つ以上が

  ともに存在した場合に、依存の確定診断をくだします。

 (a)アルコールを摂取したいという強い欲望あるいは強迫感。

   終業前になると決まって飲みに行くことを考える。

 (b)アルコール使用の開始、終了や量に関して、

   摂取行動を統制することが困難。

 (c)使用を中止もしくは減量したときの生理学的離脱状態。

   離脱症候群の出現や、離脱症状を軽減するか避ける

   意図でアルコール(もしくは近縁の物質)を

   使用することが証拠となる。

 (d)初めはより少量で得られたアルコールの効果を得るために、

   使用量をふやさなければならないような耐性の証拠。

 (e)アルコールのために、それにかわる楽しみや

   興味を次第に無視するようになり、

   アルコールを摂取せざるを得ない時間や、

   その効果からの回復に要する時間が延長する。

 (f)明らかに有害な結果が起きているにもかかわらず、

   いぜんとしてアルコールを使用する。



 ●アルコール依存症の治療

   日本では多くの場合、入院治療が行われる。

  1、導入期:初回面談〜断酒開始前

  2、解毒期:約3週間

  3、リハビリテーション前期:約7週間

  4、リハビリテーション後期:退院後〜一生



アルコール依存症というのは、れっきとした病気で、

アルコール中毒とは違います。

飲酒を続ける事により、精神依存、心身依存がおき、

飲酒のコントロールができなくなってしまう病気です。



アルコール依存症の症状は、ダメだとわかっていても、

お酒が欲しくてたまらなくなる、っていうのが特徴です。

そして、お酒をずーっと飲んでいたのに突然止めた時に出る

離脱症状(禁断症状)として、手が震えたり、

頭痛や不眠、イライラ感、発汗、そして

幻覚や妄想などの症状が出る事もあります。



アルコール依存症が長く続くと、お酒の量も増えるので、

合併症として肝障害や急性膵炎、そして

アルコール脳症になる事もあります。



アルコール依存症は、酒を飲んだらすぐなる訳じゃなく、

飲酒の習慣が始まって、精神依存、身体依存ができ、

その後トラブルが表面化して、最終的には人生が破綻

してしまう事もあるんですよ。



アルコール依存症は病気なので、診断基準もあって、

上に書いてある6つのうち、3つ以上当てはまれば診断します。



治療は基本的には入院する事が多く、

ステップ1−4と進んでいき、一生続くんだよ、

って話でしたね。



  ☆  ☆  ☆  ☆  ☆  ☆  ☆    



そいじゃあ、本日もアルコール依存症について。

今日も「アルコール依存症の治療」についてです。

今回は、先週よりも少し詳しく書いていきますよ。



 ●アルコール依存症の治療2

  ▲ステップ1

   導入期:初回面談〜断酒開始前



アルコール依存症の治療で最も大事なのは、「本人の認識」です。

アルコール依存を認めてしまうと飲酒ができなくなるから、

患者さんの多くは自分がアルコール依存症であることを

認めたがらないんですよ。



でも、患者さん本人がアルコール依存症であることの自覚

(病識)を持つこと、そして断酒の必要性を自覚しないと、

治療は絶対にうまくいきません。



患者さんが病識をもつことに必要不可欠の作業は,

アルコール依存症という病気の概念をはっきりと知る事。

それと同時に,自己の過去の生活態度や身体,

精冲的状況をふりかえって,

その概念とみごとに一致することを

自分自身の内部で確認する事から始まります。



  ▲ステップ2

   解毒期:約3週間

食欲がない、とか、吐き気が強い、とか。

そういう症状に対しては、点滴や飲み薬を使って

その都度症状に対して対処します。

こういうのを、「対症療法」と呼びます。



入院したら、当然お酒を止めてもらって、

体からアルコールを抜く治療をするんですけど。

入院してたくさん点滴をして、お酒を体から抜く、

というような治療だけでは、逆に離脱症状が悪くなる、

って事があるんですよ。



だから、抗不安薬の一種(るベンゾジアゼピン系薬物)

を使って、アルコールの肩代わりをさせて、

徐々にお酒を抜いていく、という治療を行います。



そして、お酒が飲みたくなくなる薬、「抗酒剤(抗酒薬)」

というのを飲んでもらいます。

この薬は簡単に言うと、「二日酔いさせる薬」です。



アルコールを飲むと、肝臓で代謝されて

アセトアルデヒドという物質になります。

これが体の中に貯まると、頭痛や吐き気など、

いわゆる「二日酔い」の症状が出ます。



抗酒剤を飲んでお酒を飲むと、アセトアルデヒドの濃度が

高くなって気持ち悪くなるので、飲酒できなくなる、

というような薬です。



でもこの薬、少量で悪酔いさせる薬、というだけで、

脳に働いて飲酒欲求そのものを抑える薬ではないです。

しかも、この薬を飲んで大量飲酒をすると

命にかかわる危険があるんです。



つい最近までは、アルコール依存症の薬は

この抗酒剤(抗酒薬)しかなかったんですけど。

実は、2013年の5月から新しい薬が

日本でも使える様になったんですよ。



「レグテクト」という薬で、脳に働いて

お酒を飲みたい、という欲求そのものを抑える薬です。

欧米では、とっくにこの薬が使われていたんですけど、

日本でもかなり遅れてやっと使えるようになりました。



これで、日本でのアルコール依存症の治療も

だいぶやりやすくなると思いますよ。



そんな訳で、本日も「アルコール依存症の治療」

についてでした。

そいじゃあ、本日はここまで。

いつものように、下にまとめを書いておきまーす。



━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━



【今日のまとめ】



 ●アルコール依存症の治療2

  ▲ステップ1

   導入期:初回面談〜断酒開始前

   ○患者さんにアルコール依存症であることの自覚(病識)

    そして断酒の必要性を自覚してもらう。



  ▲ステップ2

   解毒期:約3週間

   ○点滴、内服などの対症療法。

   ○抗酒薬

   ○新しいタイプの、アルコール依存症の薬、など



━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━



【編集後記】

入院すれば、自動的にお酒は飲めなくなるんですけど。

ただお酒を止める、ってだけでは離脱症状が強く出て

悪くなっちゃう場合もあるんですよ。

だから、点滴や飲み薬などをうまく使いながらの治療

というのが必要になります。



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