福島県の県民健康調査検討委員会は8月24日に会合を開き、業務委託先の福島県立医科大学から報告を受け、最新の情報を共有した。報告の中で、甲状腺検査を担当する福島医大の鈴木眞一教授は、事故当時に18歳以下だった子どもの甲状腺癌が、悪性と悪性疑いを含めて103人になり、そのうち57人が手術を受けて悪性と確定したことを発表した。 福島医大はまた、地域別の悪性、悪性疑いの発生率を発表。「避難区域等13市町村、中通り、浜通りはほぼ同様であったが、会津地方でやや低めであった」と報告された。会津地方は二次検査が終わった人の数が他の地域に比べて低めなので、その影響が考えられるという分析を記載した。検討委員会後の記者会見で、星北斗座長は「これまでいっている通りで大きな変更はない」と述べ、放射線影響は考えにくいという従来の見解を維持した。しかし同時に「詳細な分析が必要」という認識も示した。 多くの新聞は、この星座長のコメントをそのまま採用したようだった。例えば時事通信は、見出しで「地域差見られず」とし、本文で「県医師会常任理事の星北斗座長は終了後の会見で、甲状腺がんなどの診断率に地域差がないことを踏まえ、原発事故との因果関係は考えにくいとの従来通りの見解を示した。ただ、「詳細な分析が必要だ」とも述べ、被ばく量との関係などを詳しく調べるという」(8月24日)と報じた。 ただ、このコメントには奇妙な印象を受ける。そもそも"詳細な分析はこれから"なのに、なぜ因果関係は考えにくく、地域差がないといえるのだろうか。 星座長のいう「詳細な分析」は、この3地域の調査時期がずれているため、年齢調整などの補正が必要ということを意味する。このことは星座長も、記者会見で認めていた。 甲状腺癌は、年齢が上がるほど発生頻度が上がることが知られている。15歳前後の思春期を境に発生率は上昇する。加えて、福島医大の見解ではチェルノブイリで甲状腺癌が増えたのは4年から5年後以降だという。つまり放射線の影響が出てくるには多少の時間がかかるということになる。そうならば、時間の経過によって発生率も上がることになるため、年度の違いに意味が出てくる。 県民健康調査の甲状腺検査は11年10月にスタート。まず11年度は避難指示の出ていた13市町村等から始まり、12年度は福島市や二本松市、郡山市などを含む中通り、13年度は会津地方などといわき市で実施した。今回の比較は地域別であると同時に、年度別の比較にもなっているため、単純に並べて「差がない」という結論を出すことはできない。だから星座長は「年齢調整が必要」だと指摘した。 にもかかわらず、地域差比較を踏まえて「影響は考えにくい」という従来の見解をそのまま述べたため、よく考えると意味の通らない説明になってしまっていることがわかる。マスメディア各社がコメントをそのまま記載したのも、理解できなくはない。 ところで「影響は考えにくい」という表現は、検討委員会での甲状腺検査の配付資料には書かれていない。書かれているのは、線量把握などを目的とした「基本調査」の配付資料だ。基本調査では、線量推定の結果として県北・県中地区では約90%が2mSv未満などという被曝量から、「放射線の健康影響があるとは考えにくい」と評価している。 一方で甲状腺検査に関する議論の中では、「チェルノブイリでは4、5年後に甲状腺癌が増えた」ことを根拠に、影響があるとは考えにくいという表現が使われてきている。例えば鈴木教授は12年11月18日の第9回検討委員会で、「チェルノブイリとか、今までの疫学データと照らし合わせて、これは、我々が知りうる情報、科学的な知見からは放射線の影響であるということは言えないのではないか」と発言している。 しかし14年5月19日に開催された第15回検討委員会では、清水一雄委員(日本医科大学教授)が、チェルノブイリで事故後にどのような検査が実施されていたのか定かではないことを念頭に、「チェルノブイリの事故における甲状腺がんの発生の時期のデータについては、参考にはする。しかし、判断の根拠にはしない、基準にはしないというふうに扱うべき」と述べている。こうした意見がある中で「考えにくい」という表現を続けるのは、情報をミスリードしていることにならないだろうか。 |
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