「使っていない田畑があるんだが、有効利用できないだろうか」という、「やきとり大吉」のマスター正木聡さんの問いかけをヒントに、地域再生と地域活性に繋がる農業に挑戦しています。 「放射能や農薬など、見えないものを気にしないといけなくなってしまった。こんな時代だからこそ、安心出来る美味しい野菜をいわきで作って行きたい」という筥崎さんは、長年自然農法に取り組んでいる「ファーム白石」の白石長利さんから様々な技術アドバイスを受け、あたらしい仲間とともに野菜作りに取り組んでいます。 今回の体験田植えは、「やきとり大吉」のマスター正木さんが筥崎さんへ「お店のスタッフに、自分たちが提供する“食材”をつくる段階を知って欲しい」と話した事がきっかけで実現。約7反の田植えを行いました。「作る人、提供する人、食べる人、それぞれが同じ場所で同じ経験をすることで、食への理解が深まるんじゃないでしょうか」筥崎さん。放射能の問題や農産物の安全についても「消費者や提供者が直接栽培に関わったり自分の目で過程を見て、納得してもらう事が一番の安心につながる」と話します。 震災を経て感じた飲食店の役割 震災から2週間足らずの2011年3月25日。原発事故対策に関わる人たちの前線基地になっていたいわき市には、緊迫した空気が流れていました。沿岸部では、津波被害者も多数でており、ほとんどの飲食店は営業を見合わせたままでした。 「やきとり大吉」のマスター正木聡さんは、家族を一時避難させましたが、いわきに戻って店の再開準備を始めました。「こんな時期に店を開けても誰も来ないだろうし、何を考えているんだ?と批判されるかもしれない」と考えましたが、店の提灯に明かりをともしてのれんを上げました。 いわきに残っていた常連客や友人が、店の明かりに吸い寄せられるように集まり、あっという間に満席となりました。店にやって来た正木さんの友人が席につくなり「家族が流されてしまった」と頭を抱え、話しながら感極まって涙を流しはじめました。たまたま隣あわせになったお客さんが「うちも家族と会社が流されて、どうしていいのかわからない。でも自分の命はこうして残ったんだから、とにかくがんばろうやっ!」と声を掛け、背中をどんとたたきます。この日ばかりは見知らぬお客同士も他人と思えぬ雰囲気で、お互いを励まし、支え合う姿が店中に広がっていました。 また、悲壮な面持ちで「明日から原発の冷却作業に向かうんです」と話す復旧作業員へ向けて「僕らの命が守られるのは、あなたのおかげです」「ありがとう」「頑張って!」と、店に居合わせたお客さんが総出で握手を求め、励ましている様子を目の当たりにしました。 このとき正木さんは、「僕たちは、単にお酒や食べ物を提供しているだけではないと気づいた」といいます。「居酒屋という場所を通じて、お客さんに対して“安らぎ”や“喜び”、人同士の“繋がり”を提供する事が出来る」と大きな可能性を実感しました。この経験を元に「お客さんに“ありがとう”と喜んでもらえる店を作ろう」という意識がより明確になり、「食」を通じて「おいしい」といっしょに「安心」や「たのしい」を体験してもらえる居酒屋のイメージが具体化してきました。 地域の農産物を、一番おいしい時期に自然な形で届ける「地産地消」をキーワードに、生産者、提供者、消費者の三者が一体となって「地域活性」や「安心」取り組む、新しい「食」の挑戦が始まっています。 「僕たちにも出来る事は、たくさんあると気づいた」という筥崎さんは、「多くの方が応援してくださり、今の自分がある。とにかく前に進むしかない」と話します。「震災以降の"福島"の問題に、自分たちの仕事を通して、前向きに取り組んでいきたい」と話す正木さんは、「8月下旬に、2店舗目の新しい店がオープンするんですよ」と笑顔で話してくれました。 (取材・執筆:岸田浩和) | | 「ありがとうファーム」体験田植えの様子。筥崎さんが、参加者に田植えの手順を説明する。 | | 「やきとり大吉」の店内で自家製のとり皮を焼く正木さん。 | | オクラはさみ(左)とズリ(右)。 | | いわき平店の店内。正木さんは、震災後2週間足らずでこの店を再開させた。8月には2店舗目がオープンする予定。 | | |
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