谷本 真由美 米国シラキュース大学で情報管理学修士、国際関係論修士を取得。その後、ITベンチャーなどを経てロンドン在住。 『谷本真由美(@May_Roma)の「週刊めいろま」』では@May_RomaとしてTwitterで舌鋒をふるメイロマが、世界中の時事問題に突っ込む! | 成果主義はきちんと設計運用されていれば「やるべきことが終われば、定時前でもさっさと帰る」ことは可能です。さらに「明らかに能力を超えた分量の仕事を押し付けられて、結果的にサービス残業になる」ということはありません。 ワタクシの懸念は、日本の多くの組織では成果主義を導入し運用する体制が整っていませんので、失敗する可能性が高いという点です。 そもそも成果主義を運用するには、以下の条件が必要になります。 1)業務説明書の整備。 2)働く人それぞれの役割分担の明確化。 3)数値など客観指標による業績の評価。 4)評価された業績と報酬の連動。 そもそも日本の組織の多くでは、(1)と(2)が整備されていません。採用時に労働者を職能別(ジョブ別)、つまりスキルや技能によって採用するのではなく、組織の一員になるかどうかという要件で採用してきたからです。 これは離職や転職を前提としない長期雇用で要員計画を作成するため、「ある一定の期間に一定の組織の機能にあわせてスキルを提供してもらう」のではなく、「組織に長くいることを前提としてスキルや技能は組織内部で身につけ、柔軟に対応してもらう」というモデルが前提になっています。これは長期的視野で組織を運営するうえでは合理的であり、景気が上向きだった頃には良かったわけですが、現在のように市場の動きが激しい時代にはそぐわなくなってきています。 また現代においては、業種や業界によっては知識やスキルがますます複雑化しているので、仕事を細分化することやスキル別に人を雇うことは不可避です。 例えば欧州や北米のITの世界では、「銀行間取引システム開発の専門家が銀行のネットワークの設計を担当する」ということはあり得ません。どちらも高度な知識と熟練したスキルが必要です。採用はスキル別になりますし、報酬も異なります。石油採掘技術者とガソリンスタンドへ製油を販売する担当者のスキルも全く別です。インド市場での化粧品マーケティング専門家と北米でのオムツのマーケティング専門家のスキルも全く異なります。 現代ではビジネスのスピードも上がっていますので、「専門が全く異なる人を別の部署に異動してスキルを身につけてもらう」ということも不可能に近くなっています。トレーニングコストが無駄になりますし、時間も間に合いません。組織外から専門家を買ってきた方が早いわけです。 しかし残念ながら日本の保守的な組織では、このような市場の変化を理解していません。専門が全く違う人を部署移動させて、新しいスキルを学ばせるといった無駄なことをやっています。また新卒一括採用で数学や電算機を全く学んでこなかったような文系の学生を、ITのエンジニアとして採用するようなバカげたことをやっているわけです。余裕があった時代は良かったかもしれませんが、現在ではそれらは無駄であり、時間とコストを無視した採用方法なわけです。 しかし付加価値が低く、特別なスキルやトレーニングを必要としない職業の場合は異なります。例えばマニュアルさえあれば誰でもできる店舗での販売や、誰でも一日で覚えることができる工場の組み立て作業などです。こういう職種の労働者は、高いレベルの基礎教育や専門知識が必要ではなく、トレーニング時間もコストもかかりませんので、専門を詳しく吟味して採用する必要がありません。北米や欧州ではこのように付加価値の低い低熟練労働者の仕事は、より人件費の低い海外で外注されてしまうことがあります。 中途採用を頻繁にやっている中小企業やベンチャー企業では、職能別で雇用することもあります。でも(3)と(4)が整備されていないことが多いため、担当業務と報酬がアンバランスだったり、サービス残業を強要されるということが問題になります。 (3)と(4)は、人事管理体制の設計だけではなく、企業が利益を従業員にどのように配分するか。また組織をどのように円滑に運用し競争力を保つかという、まさに「経営の課題」なわけですが、残念ながら(3)と(4)をうまく設計できる専門家の数というのは限られています。大手多国籍企業にはそのような専門家がおります。しかしそのような方の報酬というのは概して高額で、大方の日本の組織では雇用することができません。 なお、ワタクシの本業のひとつは、IT業界における業務説明書の作成や、パフォーマンス評価の策定、サービスレベルの設計や計測でありますが、日本の多くの組織では、このようなことを厳密にやっている組織は、大手企業であってもごく少数です。多くはナアナアで仕事をしているため、外資系からやってきた人々は業務と報酬のアンバランスさや、責任配分の曖昧さに嫌気がさして退職してしまいます。 このような状態のままでは、企業の国際化や人材の多様化は難しく、様々な国から特殊なスキルを持った人材を採用することは困難になっていくでしょう。世界中から優秀な人材を引きつけるには明確な成果主義評価の体制作りはもちろん、人事管理の仕組みをグローバル展開しなければならないからです。 つまり成果主義を導入できない体制は、日本の没落を招く可能性があるというわけです。 |
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