いわきで農業に携わる3名へ、それぞれの立場から震災以降の福島の農業の実態と課題、可能性についてお話を伺いました。農産物の情報開示の取り組み、増える耕作放棄地の現状、自然農法や顔の見える農業について、今号と次号の2回にわたってお届けします。
「原発事故をチャンスに変える、農業の発想」
福島県いわき市で米作りや野菜栽培を営む白石長利さん。大学卒業後は、代々続く農家の跡取りとしていわきに戻り、MOA自然農法と呼ばれる無農薬・無化学肥料栽培に取り組んでいます。190アールの水田と110アールの畑、20アールのハウスで、米やブロッコリー、トマトのほか様々な農作物を作っています。自然の力で育った、おいしくて安全な農作物を食べて欲しいとの願いで、手間のかかる減農薬・無農薬農法に先代から挑戦し、様々な研究と試行錯誤を重ねてきました。
しかし3年前の震災・原発事故をきっかけに、福島の農作物は大きな打撃を受け、流通量も一時は大きく落ち込みました。
このとき、白石さんは冷静に状況を見つめ、「原発事故がきっかけで、これだけ食の安全に関心が集まったのだから、これをチャンスと捉えるべきだ」と考えます。消費者の不安は不十分な情報開示にあるのだから、改善すべき点は明確だと判断しすぐに行動しました。農作物に対する放射性物質の検査や情報開示に取り組みながら、農薬や化学肥料についても正しい知識を持っていただきたいと、今まで以上に積極的な情報発信に取り組みます。「震災を嘆いても仕方がない。農業やお客さんとこれからどう向き合うかが問われている」と痛感した白石さんは「自信を持って食べてもらえる安全な作物を育てて、しっかりと説明を行い、お客さんとのコミュニケーションに時間を割くようになった」といいます。
震災を経て、原点に立ち返ったという白石さんの言葉には、行動の末に確信した手応えが滲んでいます。「震災前も以降も本質は変わっていません。選択してもらえる生産者を目指して日々努力を惜しまないことです」
(次号に続く/取材・執筆:岸田浩和) | | やきとり店の常連や仲間たちで、震災後初めての田植えに挑んだ。 | | 右手の田植えの終わった水田に対し、左が耕作放棄の田んぼ | | いわき市で有機農法に挑む「ファーム白石」の白石長利さん | | |
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